1941年8月26日に公開された映画『簪(かんざし)』。
この記事では、映画『簪(かんざし)』のあらすじ(ネタばれナシ)・みどころ・解説・感想をご紹介します。
映画『簪(かんざし)』の予告編
夏に各地から温泉宿に集まった多くの人たち。女性が温泉に簪(かんざし)を知らずに落とした事で、男性がケガをしてしまいます。
それがきっかけとなり、お詫びに訪れた女性や温泉にいる人たちとの交流を、のどかな温泉の風景と共に描いています。
時代設定が昭和初期であるため、女性が経済的に自立する事の難しさを描きつつ、女性が微妙に抱きはじめた男性への恋心などを描きながら、様々な人たちの交流を描いたストーリー展開を見せていきます。
映画『簪(かんざし)』のあらすじ(ネタバレなし)
温泉宿にやってきた団体客の人々。その団体客たちは、按摩さんに按摩を依頼する。
按摩をしてもらいながら、客の一人である太田恵美は、気難しい先生が夏休みにこの温泉宿に泊まっているという話を知らされる。
その後、団体客たちは去り、温泉でくつろいでいたお客の中で、納村という男性が、沈んでいたかんざしに足を刺しケガをしてしまう。
納村はケガについて、さほど気にはしていなかったが、この宿に泊まっていた片田江という先生は、宿の安全性について難しそうな事をいいながら、宿主を困らせてしまう。
簪を落としたのは太田恵美という女性。やがて、ケガについて詳細を知らされた太田恵美は、温泉に戻ってきて納村に対して謝罪する事となる。
恵美は納村の怪我が回復するまで、宿に留まる決意をする。
やがて納村と恵美は次第に惹かれあっていく。
映画『簪(かんざし)』の解説
昭和16年に日本で公開された映画です。
この映画は井伏鱒二の小説である「四つの湯槽」に基づいて、監督の清水宏が脚本を書いて映画化した作品です。
主演は昭和時代の日本映画界を代表する女優である田中絹代。相手役は昭和期に数々の映画で活躍した笠智衆。
監督の清水宏は、この映画の撮影より数年前に主役の田中絹代と、結婚寸前の仲と言われていたが口論が絶えず別れた後にこの映画の撮影がされた作品である。
作品の完成度は素晴らしく私生活を感じさせないお互いのプロ意識が伝わってくる評価が高い映画とされている。
作品の中で温泉や温泉の周辺の風景が随所に出てくる良さがある。
昭和初期いえば、今から考えると遠い過去ともいえるため映像から見られる人里離れた自然あふれる風景は貴重な映像といえる。
映画『簪(かんざし)』のみどころ
片田江先生と少し気の弱い広安との会話がなかなか面白く、ひとつの見どころといえます。
物事を独自の解釈をする片田江先生に対して、決して不愉快な表情を見せず、少しとぼけた感じでありながら真面目そうに先生独自の理屈を神妙に聞く広安の姿は笑いを誘い見どころといえます。
またリハビリを繰り返しながら懸命にケガを直していこうとする納村と、それを励ます2人の兄弟のシーンは見どころです。
そして今後の進路に悩む太田恵美の姿にも注目すべき場面です。
東京に帰っても自分の帰る場所はないと言い切り、少しづつ納村を一人の男性として意識していく過程は見どころです。
映画『簪(かんざし)』の感想
ある温泉に夏の時期に滞在した事がきっかけとなり、そこの宿泊する人たちの交流を描いた物語という感じがしました。
製作された時代が今と違い、女性が社会的な自立を果たすのが難しいがゆえに起きる女性の心の葛藤を上手く描いていて、興味深く鑑賞できる映画でした。
映画『簪(かんざし)』の登場人物・キャスト
太田恵美: 田中絹代
納村猛:笠智衆
片田江先生:斎藤達雄
広安: 日守新一
広安の妻:三村秀子
老人:河原侃二
お菊:川崎弘子
宿の亭主:坂本武
映画『簪(かんざし)』のスタッフ
監督:清水宏
脚本:清水宏
製作:新井康之
音楽:浅井挙曄
撮影:猪飼助太郎
編集:浜村義康